髑髏感想文でなく自由研究です。 ※ネタバレあり
感想文は苦手なので、研究文を書きます。
「髑髏4作品における蘭兵衛と極楽、および兵庫(忠馬)との関係の変遷について」
髑髏城で重要な位置を占める無界屋蘭兵衛。
彼と極楽の関係が髑髏14年を掛けて一番深くなったことについて考察します。
キャラを決定的に印象づけるのが、蘭兵衛が死ぬ時にあります。
卑怯な手段で寝返りを余儀無くされた挙げ句裏切られ、天魔王自身に切られているにも関わらず最後まで天魔王の盾となり、
極楽のガトリング砲に撃たれるも「所詮外道だ!」と言い放って再度極楽に向かってくるシーンに蘭兵衛のキャラが
凝縮されています。
以下このシーンに蘭兵衛のキャラと、このときの演出で見えてくる極楽、兵庫(忠馬)との関係を比較していきます。
初演版の蘭兵衛は女、ああ、最初が女だったんだね。
女丈夫というか、姐さんチックな蘭兵衛に羽野アキの妹キャラ極楽で噛んだ印象でした。
この時の蘭兵衛=蘭丸は天魔王に切られたまま死んでしまいました。
ので上のシーンはまだありません。
無界を裏切って挙げ句天魔王に騙されていることに気付いて抗ってそのまま死んでいる?ので、ちょっと不憫といえば不憫か。
97年版蘭兵衛は粟根まことさん、色気より生真面目さが前面に出て、これが後の蘭兵衛を作ったと思われます。
一見するとクールな切れ者、でもオタ(粟根さん要素?)という。
極楽から見る蘭兵衛は、秘密はあるけど才能のある「人間」にみえたと思う。
ひょっとしたら色街を作る提案も蘭兵衛から出たかもしれない。
ちゃんと「春を売るんじゃなく、芸を売る」ってことを言った上で。
それに極楽たちが賛同できたのは、道が他になかったのもあるかもしれないけど、何より蘭兵衛が無「性」の人間で、
その部分で信頼できる何かがあったからと見ます。
蘭兵衛は極楽たちを「女」以前に「人間」としてみているので蘭兵衛と極楽の間には恋愛感情は特になし。
件のシーンでは、最後は極楽のガトリングで撃たれて死に、さらに追い討ちをかける極楽を兵庫が止めるという演出です。
人間として信頼していた蘭兵衛の裏切りで、仲間の女達を殺された極楽の怒りが表現されています。
これを止める兵庫の行動の意味(兵庫もこの時点で子分を殺されています)はいろいろ考えられますが、
蘭兵衛に「義」を見たからと考えたい。
それは普段の、色街の里長と客の時からあったのか、蘭兵衛の死際に見えたものかはわかりませんが。
代わってアカドクロの蘭兵衛は水野美紀さん、女性です。
が色気はナリをひそめ、禁欲的な男装の麗人といった印象です。
兵庫は蘭兵衛が女であることに気付いていないっぽいけど、極楽(坂井真紀さん)は多分分かっている。
蘭兵衛が女になったところで極楽のように女を武器にできない人間であることを分かっていたから
敢えて女性視はしなかったのではないかと思う。
そして蘭兵衛も本物の男ではないからこそ時々どうしようもなくなる感情の綻びを理解して慰められるのも
極楽だけだったかもしれない。
この2人の繋がり方は男女でもなく女同士でもない特別な関係だったのではないだろうかと思いました。
愛情と友情の間のような。
天魔王に見入られた蘭兵衛の乱れ方は、過去における蘭兵衛(蘭丸)と天(信長)との関係を意識させ、
そして天を選ぶ蘭兵衛にとっての無界の里壊滅は、
かつて守ることが出来なかった主人を取り戻すための儀式にも近いものを感じました。
なので最後のシーンでは同じく極楽のガトリングで死んでいきますが、
分かり合えていたと思っていた極楽が「畜生!」と蘭兵衛の遺体に飛びかかり、それを兵庫が押さえています。
兵庫には蘭兵衛の覚悟が見えていたのかもしれない。
それを強化するのがアカの途中から演出に加わった蘭の演出です。
一幕終わりに蘭兵衛が蘭の花を投げる
→2幕途中で捨之介が拾う(この後重要な小道具になります)
→2幕終わり沙霧が天魔王の仮面(天の頭蓋骨)の隣に添えて退場が、髑髏城にサブストーリーとその落ちをつけていて
いいなあと思いました。
これはアオに引き継がれています。
最後のアオドクロは池内博之さん、男性です。
がさらに特殊に発展。
粟根蘭兵衛が作った生真面目さと水野蘭兵衛が作った愛情の両方を持って天魔王に翻弄された悲劇キャラになりました。
ここでこの話をするとちょっと違うかも(それとも狙い通りかも)しれないけど、高田聖子さんの極楽と池内蘭兵衛だ
とどうしても池内蘭兵衛のほうが「弱い」。年齢的にもキャラ的にも。
あのどこから見てもCHICAGOにハジけ切った遊廓無界の里を統制するには池内蘭兵衛は幼なすぎる。
ので里長こそ蘭兵衛かもしれないけど、色街にしようと言い出したのは極楽の側が最初だったと推測します。
アオでは極楽の歌をバックに蘭兵衛ひとりの場があり、極楽が蘭の花を握って歌うのですが、恋愛感情というよりは
母性本能くさい(失礼)でもそう見えるのね。
無界の里の女達に対して、粟根蘭兵衛はスキがなく、池内蘭兵衛はスキだらけ、そう想像して止みません。
池内蘭兵衛の最後は、極楽に向かう蘭兵衛を忠馬がかわって終わらせます。
忠馬は子分を殺された恨みから尚も殴ろうとするけど、それを極楽が止める。
殺す者と止める者が逆になります。
97年版で兵庫が「義」を、アカで「覚悟」を見たのに対し、アオでは極楽の「情」が余ったのではないかと思いました。
さらに蘭兵衛視点で「人」の男を見るとこれにも変遷はあるかもしれない。