彼の名はシャルル=アンリ・サンソン。パリで唯一の死刑執行人であり、国の裁きの代行者 “ムッシュー・ド・パリ”と呼ばれる誇り高い男だ。市中で最も忌むべき死刑執行人と知らずに、騙されて一緒に食事をしたと、さる貴婦人から訴えられた裁判で、シャルルは処刑人という職業の重要性と意義を、自ら裁判長や判事、聴衆に説き、勝利を手にする。
父・バチストの仕事を受け継ぎ、処刑人としての使命、尊厳を自ら確立しつつあったシャルル。おりしもルイ15世の死とルイ16世の即位により、フランスは大きく揺れはじめ、シャルルの前には次々と罪人が送り込まれてくるようになる。将軍、貴族、平民。日々鬱憤を募らせる大衆にとって、処刑見物は、庶民の娯楽でもあったが、慈悲の精神を持つシャルルは、自身の仕事の在り方に疑問を募らせていく。
そんなある日、蹄鉄工の息子ジャン・ルイが、恋人エレーヌに横恋慕した父を殺める事件が発生。その死は実際には事故によるものだったが、「親殺し」の罪は免れず、ジャン・ルイは車裂きの刑を宣告される。しかし、職人のトビアス、後に革命家となるサン=ジュストら、彼の友人たちは、刑場からのジャン・ルイ奪還を目論み、成功する。この顛末を目の当たりにしたシャルルは、いっそう、国家と法、刑罰のあり方について、思考を深めることとなる。
さらに、若きナポレオン、医師のギヨタンら、新時代のキーマンとなる人々とも出会い、心揺さぶられるシャルルがたどり着いた境地とは——。
K.Nakashima selection Vol.39
18世紀のパリに実在した死刑執行人の物語
ルイ16世、マリー=アントワネット、ロベスピエール……。彼らの首を刎ねたひとりの男、シャルル=アンリ・サンソン。愚直に職務をまっとうする一方で、死刑廃止、刑罰の平等を訴え、階級社会に一石を投じる。激動するフランス革命期を生きた孤高の男のヒューマンドラマ。
再始動に向けて新たな変更を加えた改訂版。
※本商品は書籍です。
※本著は2023年上演版の戯曲本となります